ニューヨークに着いた
6/2は、是枝裕和監督、坂元裕二脚本の映画『怪物』の公開初日、うちから一番近い映画館の朝9時台の初回を観に。その日の夕方の飛行機でNYCに飛ぶのにパッキングが終わってないものの、きちんと寝てないと2時間の映画を眠らずに観られないと思ったので、前日の夜に早めにベッドに行ったけれど、意識もなくなるいわゆる実質的な睡眠は2時間程度、あとは5時間以上目をつむっただけの休息のまま映画館に向かった。
わたしはかなり批判的に観たのだけど、同時に、眠らなかったのは、退屈しない作りになっているし、映像の緊張や美しさというものがある、ウェルメイドであるのは間違いないからだとは思う(そのあたりについては久保豊さんの指摘どおりだと思う; 日本語、英語)。
「LGBT(Q+)」もそうだけど、単に性的にマイノリティである人々を指す意味だけじゃなく、歴史的に、数の上での意味でも、社会的な脆弱性という意味でもマイノリティである人々が、ある同じ、特定の社会規範によって制度やインフラや一般的な価値基準から不可視になっていたり、差別や偏見やステレオタイプに基づく不当な処遇を受けたりするがゆえに、連帯して抗い、権利や自尊心を回復するという政治的な態度という意味での、「クィア」という看板がこの映画につけられたり、そういう視点から評される/語られることは必要だと思う。
一方、わたしがざっと見た限りだと、この映画が「世界的にも」、日本社会においてもかなり好意的にのみ評価され、語られる傾向が強くあって(特に日本のニュースメディアにおいては、脚本賞の受賞と合わせて)、その状況にきちんと抗い、広報面や物語構造においてネガティヴな側面があるという非常に重要な批判的にみる文脈があるのだと知られてほしいし、書かれる/語られるスペースがあってほしい。
もちろん作り手や好意的に評価される人たちと敵対する、という意味ではなく。ただ、作り手にしろ批評にしろ、観客にしろ、社会的に不当な処遇を受け、言葉を発する力がなかったり発するための言葉すらなかったりする人がいるということが、映画についてはもちろん、美術や文学といった日本の芸術・文化の領域ではかなり乏しいという残念な状況ではあると思う。そのように語られるスペースも、人もほとんどいない。
そういった状況への疑問から、批判的な声を上げるための力を培うコミュニティや、声を上げる際の言葉をどう身につけたり作ったりされてきたかということをつかみたくて、ニューヨークへの滞在を決めたのだった。
映画館を後にし、昼頃に帰宅して2時間後くらいには迎えのタクシーが来るので、羊羹をちびちび食べながらパッキングし、空港へ。
(我が家から空港までは、電車〜高速バスといった公共交通機関を使うのがいちばん安くて1500円くらいなのだが、その乗車と乗り換えのためのあいだの徒歩で、でかくて重いスーツケースを持って移動する労力がかなり大きく、比較すると、2500〜3000円程度で乗り合いタクシーを呼んだほうがマシという考えでの判断;「タクシー呼ぶなんて贅沢な」という声を先回りした内省で聞いてしまうので、こうやって正当化する言葉をいちいち考えてしまうし、訴えてしまう)
ただ、大雨のため、そのタクシーが遅れたので、離陸時刻の2時間前、搭乗開始時刻の1時間15分前を30分ほど切って到着したため、かなりバタバタだった。昼ごはんを食べ損ねたのでどうにかして何か食べたいと、パスポートコントロールを抜けて出国後のターミナルのフードコートに向かうと、おそらく訪日旅行客、またはアジア旅行での乗り換えだろう人々で混雑していて、注文から食べ物を受け取るまでの待ち時間が30分近くかかってしまった。
2020年2月のコロナ禍以降、5回目の海外だが、明らかに人が増えているし、空港内の飲食店や免税店の営業が回復している。友達へのお土産でタバコを1カートン買った。アメリカの免税店で買うより1/3以下の値段(円安と物価の差よ……)。
飛行機は予定時刻の1時間半後にやっと飛んだ。搭乗してから1時間以上飛ばなかったので、それだけで疲れた。満席のエコノミーで、隣はフランス語を話す体格のいい白人の男性が座っていたため、窮屈だった。いつもわたしは通路側に座るのだが、内側の席に座る人たちは長時間の移動をあのせまさでどうやりくりしているのか、いつも不思議。
隣の方はずっと、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』、『ミナリ』、『ザ・ホエール』、『イニシェリン島の精霊』を観ていて、趣味がいいなと思った。機内での離陸待ち時間も含めた13時間強のうち、9時間も映画を観ていて、トイレにも到着時刻の2時間前くらいに立っただけで、驚異的だった。わたしはずっと足を組んだり組み合えたり、シートの上で体育座りをしたり、ずっときそきそ(土佐弁です)動いていた。
一度くらいビジネスクラスに乗ってみたい。
6/2の18時半ごろにニュージャージー州のニューアーク空港に着いたが、悪天候の影響もあって、到着ゲートまで機体が移動できないので数十分ほど機内待機となった。着陸の前にも、天候の影響で30分ほど上空で待機するとアナウンスがあって(NYCでははかなりの大雨が降っていたそう)、それだとトータル14時間以上機内の閉じ込められるので勘弁してほしいと思ってたら、15分ほどで待機が解除されたのに、結局のところ。
ただ、降りてからは入国もとても早く(日本と大違いですね!)、19時半ごろには荷物受け取り場所に着いて、20時前にはLyftで配車を予約した(これも言い訳説明だが、滞在先まで公共交通機関を使うと、電車かバスで空港から移動し、ニュージャージー州からマンハッタンに向かう電車に乗り換え、そして地下鉄で滞在先近くまで30分以上電車に乗って;乗り換えあり、それから徒歩という、10時間以上のエコノミー席フライト後に30kgくらいの荷物を抱えての移動は無理、そしてその体力的なコストと金銭的なコストを天秤にかけての判断)(と金銭的な余裕がないと、どの選択肢がいいかと考える時間が長く、多くなるよなと思う)。
TOYOTAの車で迎えに来てくれたドライバーは、チベットからの移民の方だった。その人のお兄さんは、ネパールでJICAで働く日本人女性と知り合って、今は福岡に住んでいると話してくれた。ドライバー自身はアメリカに移住して15年で、永住権は5年くらいで取れたらしい。日本では入管法の与党政府による改訂案によって、難民に対して不当な処遇が許容されてしまう危うい状況が続いているという話をした。アメリカはチベット移民への対応が寛容だと話してくれた。
それからクイーンズのジャクソン・ハイツあたりにあるチベット料理のお店をいくつか教えてくれた。前回はじめてNYCに来たときは、クィーンズはフラッシングのほうの美術館に行っただけだったので、アジア系のコミュニティや料理屋にも行ってみようと思う。
21時にはブルックリンのアパートに着いた。
サムネイルの画像は、滞在先のアパートのバスルームから見える、建物の庭。
ところで、前回のニュースレターで書いた支援の呼びかけに、10人以上の方が申し出てくれて、1ドル140円近い円安がまだ続くだろうから、とても助かっています。中には、寄付してくれたお金の出どころのストーリーを聞く機会もあって、その話自体にももちろん、ストーリーを共有してくれるコミュニケーションにも、励まされています。
美術館の無料(あるいは金額を自分で決められる)デーを利用したり、自炊をして食費を下げたりするつもりだけど、引き続き、滞在がんばってねという応援をしてもらえると(寄付にしろレターの有料配信登録にしろ)、こうして書くうえでも励みになります(タイトルがおもしろみも何もない直球なのは許して!)。
次回は、3日に参加したニューヨーク公共図書館のクィア関連の教育者プログラムやブルックリン美術館の「最初の土曜日」イベントのことを書こうと思う。
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